付録4. ラクダの側対歩
第10章 ラクダの補足
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ラクダは側対歩(ペース)をする点で有蹄類のなかでは独特
どんなときも常に側対歩(Dagg, 1974)
ある仮説によれば、長い四肢が関係するという(Webb, 1972; Janis, Theodor, & Boisvert, 2002は、側対歩なら脚同士が邪魔にならず、歩幅を大きくすることができると論じている)
この仮説の支持者は、チーターが側対歩であり、アフガン・ハウンドなど四肢の長い犬種も側対歩であるという事実を指摘する
しかし、チーターもアフガン・ハウンドも側対歩になるのは歩くときだけ
キリンも側対歩だといわれるが、これは間違っている(Janis, Theodor, & Boisvert, 2002; Pfau et al., 2011)
実際は側対歩でもトロットでもなく、キリン独特の歩法をとる
ということは、ラクダが側対歩なのは、四肢が長いからだけではなさそう
ウマもまた四肢の長い動物
ウマはスピードによって異なる歩法をとる
常歩(ウォーク)→速歩(トロット)→駈足(キャンター)→襲歩(ギャロップ)
さらにウマは最高速度以外では様々な歩法をとることが可能
特に注目したいのは、トロットのスピードを出す時に、斜対速歩ではなく側対速歩になるウマもいる
馬種すべての見渡すと、大半は斜対速歩だが、アイスランド産のポニーでは側対速歩の方が普通
このことから、ウマと歩法には遺伝的な要素が関係しているのが予測される(Promerová et al., 2014)
そして実際、斜体速歩するウマの子どもは斜体速歩し、側対速歩するウマの子どもは側対速歩する傾向が見られる(Becker, Stock, & Distl, 2011; Zwart, 2012)
最近、斜対速歩するウマと側対速歩するウマの遺伝的な差異が同定された
この差異は、脊椎から四肢に情報を伝えるニューロンにおけるインパルスの発生パターンに影響を及ぼすのだという(Andersson et al., 2012)
ウマの歩法の遺伝性に関する研究から考えると、ラクダの独特の歩法は、単に祖先形質が保持されていることを示しているだけではないだろうか
ラクダの足跡の化石から、ヒトコブラクダが出現する数百年前、両者の祖先が側対歩していたことが明らかに示されている(Webb, 1972)
もし本当にラクダの足裏の幅広いパッドが側対歩を安定させるために進化したのだとすれば、行動的形質がその後の形態的進化を方向づけたわけだ
そのようなことが起こったのははじめてではない
ラクダの胸郭の幅が比較的狭いのも、側対歩への適応だと考えられている
そして、形態的変化が生じると行動が変更されにくくなる